胃がんは早期の場合を除き、手術で胃を全部または一部切除する必要があります。
治療のあと5年を経過するなりして一般的にいうところの「完治」になったとしても、失った臓器が元に戻ることはないので、多かれ少なかれ後遺症というものは出てきます。
以下は自分の経験した、また今後も経験していく症状の記録です。
胃がんに罹って間もないご本人はもちろん、身近に患者がいる方にも是非読んでほしいのです。
小胃症状・消化不良・逆流性食道炎
よく世間で「胃が大きくなった」という表現が使われるため、「胃は切っても元に戻る」と思い込んでいる人がいます。
そのため「手術して時間たったから、もう元通りになったんでしょ」と周囲の人は思いがちですが、そんなことはありません。
手術後の流動食からだんだんと食事量が増えていくのは、胃が大きくなったからではなく、胃を切除した人なりの食事方法を訓練で身に着けたからです。
胃は「胃袋」というだけあって、食事を袋状に包み込んで消化する臓器です。
食道に繋がっている入口を「噴門」、腸に繋がる出口を「幽門」といい、通常であれば食事の後はそれぞれの門がキュッと閉まって食べたものを細かくし、少しずつ腸に流し込んでいきます。
胃がんの切除術で部分切除の場合、幽門側を切除することが多いです。
出口がなくなると、食べ物が胃に溜まらず、腸に速攻で流れます。
内視鏡検査の際は自分の胃の中をまじまじと見たりしますが、ホントに出口の門がなくなってて、ブラックホールのような丸い穴がポッカリ開いています。
そんな穴に胃液で消化されていない食べ物が一気に入っていったら、当然消化不良を起こします。
消化に時間がかかるならまだしも、腸に完全に詰まってしまうとイレウス(腸閉塞)をおこして緊急入院なんてことにもなります。
特に麺類は腸内で膨張するので鬼門です。
そのため、手術後は幽門の代わりの作業を口の中で行うようになります。
少しずつ食べ物を細かくし、少しずつ飲み込んで腸に送り込むという作業を30分くらいかけて行います。
なお、噴門側を切除した場合は食べ物を少しずつ腸に送る能力は維持できますが、逆に入口がポッカリ開いているので、食後に横になったりすると食べ物が食道に逆流します。
逆流の度合いが一般的な逆流性食道炎とは違うので、炎症が重症化しないよう注意が必要です。
あ、出口が開きっぱなしの場合、酒を飲むとアルコール分が腸まで一気にスコーンと流れ込むので、ごく少量で酔うようになります。
経済的でいいっちゃいいんですが、酒をたしなむのが好きなかたはそういうわけにもいかないですよね。
そういう場合は多少食べ物を腸内に送り込んでおくと、アルコールの吸収を遅くすることができますよ
ダンピング
前述のとおり胃を切除すると食べ物が急激に腸に流れ込むようになりますが、その際に発生する身体の様々な不調のことをいいます。
胃切除の代表的な後遺症で、食後すぐ起こる「早期ダンピング」と2時間ほどして起こる「後期ダンピング」の2種類があります。
早期ダンピング
生き物の身体は生命維持に必要な活動に優先的にエネルギーを使うようにできています。
そのため、腸に急激に食べ物が流れ込んできた場合、えらいこっちゃということで体中の血液やら体力やらホルモンやらが内臓に集中します。
そうなると、動悸、冷や汗、発熱、腹痛、下痢、眠気、めまいなど様々な症状が現れます。
初めて早期ダンピングを経験した時は救急車呼ぼうかと本気で思いましたが、少し休めば落ち着きますので焦らずにやり過ごしましょう。
それに少しずつ食べれば重い症状は回避できますし、時とともに自分の限度や症状の傾向もわかってきますので、それほど辛い症状ではなくなります。(慣れともいう)
ちなみに自分の場合、朝はおにぎり1個とチーズを出勤1時間前までに食べます。
この塩梅がわかるまで、通勤途中に駅のトイレに駆け込むという生活が4年ほど続きました。
またお昼のコンビニ弁当の量が多すぎた場合、気絶レベルの睡魔に襲われます。
あ~カツカレー食べたい。
後期ダンピング(または晩期ダンピング)
一般的に食事の後は血糖値が上がり、膵臓からは血糖値を下げるために食べ物の量に相応する量のインスリンが分泌されます。
そのため食べ物が一気に腸に流れ込むと、膵臓は「こいつドカ喰いしやがったな」と判断し大量にインスリンを分泌します。
がしかし、胃切除した場合の実際はドカ喰いしていないわけですから、インスリンは過剰分泌していることになり、食後2時間ほどでインスリンの効き過ぎによる低血糖の症状が現れます。
具体的には脱力感、めまい、身体の震え、発汗などなど。
対応策は糖分(ブドウ糖)を摂取して血糖値を元に戻すこと。そのため飴などを常に携帯していつでも血糖値を上げられるようにしておきます。
自分の場合、脱力は日常茶飯事、疲労が加わると手の痙攣、目の前真っ暗または真っ白など。以前よりは軽くなりましたが。
それでも未だにゆっくり食べようが後期ダンピングが出るので、職場の引き出しは糖分補給という名目のお菓子だらけです。
胆石
進行胃がんの場合、胃を切除する際に周辺のリンパ節も一緒に切除します。
その際、胆嚢の動きをコントロールする神経(迷走神経)が切れてしまうことがあります。
胆嚢は肝臓から分泌される胆汁を溜めて濃縮させる臓器なので、迷走神経が切れると、胆嚢が麻痺していると胆汁が溜まり放題で出て行かなくなり、胆石ができます。
胃切除後の胆石は通常無症状で、また手術の際はなるだけ迷走神経を切らない手段も普及しているそうです。が、
でも自分、腹が痛いんですわ。
自分の場合は胆石じゃなくて胆泥(スラッジ)という固まってない状態のが溜まり、溢れ、癒着してるらしい。
エコー検査の際にみぞおちを思い切りぶるんぶるん揺さぶられましたが、くっついて動かないらしいです。
ただ腹筋使ったり身体を折り曲げたりしなければ違和感程度の痛みなので日常生活に問題はありません。
日常生活に問題がないので、主治医には「放置」と言われました。
念のため胆汁を溶かす薬は飲んでますけど、そもそも動いてないのに融けて出て行ってくれるものなのか、全く不明。
胆嚢は炎症が起きたら緊急入院らしいですが、自分はどうなるんでしょうね。
いくらググっても事例が出てこないので何も起きないことを願います。
排泄物について
いわゆる の件なので、読みたくない方は飛ばしてください。
産まれてこのかた通ってきた道が変わるので、出てくるものも変わります。
手術直後の快復期は不調なのは理解できるかと思いますが、その後のことですね。
基本的に消化不良な状態はずっと続くので、口の中で細かくしてから飲み込むようにしていますが、それでも相性の悪い食材があります。人により相性は違うのであくまで自分の場合ですが、
トマトなど野菜の皮は消化できません。そのまま出てきます。
香りの強い食べ物は臭いごと出てきます。
麺類(特にパスタ)は詰まって出てこなくなります。
また前述の胆嚢が動かない場合、脂肪の消化機能が落ちます。
手術後1、2年は揚げ物が食べられたんですが、今では揚げ物はもちろん、チャーハン、生クリームも食べると特急で出てきます。
また、脂肪が分解されていないと強い酸性臭がするので、外出先ではエコへの配慮もなく出たら速攻で水を流します。
臭いについては、恐らく多くの胃切除者が気にしていると思います。
周辺の方もそういうものなのだと理解してあげてください。
なお、うちの台所には油があっても意味がないので置いていません。
あ~カツカレー食べたい。
残胃炎・残胃がん
残胃がある場合、ポッカリ開いた穴から胆汁が逆流して胃炎になる場合があります。
また再発とは別に、新たに胃がんになる場合もあります。
がんを切除したところでピロリ菌の影響で変質した胃壁が治るわけでもないので、病歴のない人よりは罹患率は高くなるのだろうなと思います。
でもまあ、そういう体質なんだと割り切って定期的に検査を受けましょう。
ウチの祖父は単発のがんに3回罹りつつも、結局亡くなったのは90代になってからでした。
いろいろ書きましたが、すべての人が経験するわけではありませんので、患者本人の方は主治医と相談しながら、また周囲の方はこんなこともあるのかと暖かく見守ってあげてください。